「そしてキアロスタミはつづく」デジタル・リマスター版特集上映
2022年3月12日~3月25日
『トラベラー』
1974年/イラン/モノクロ/1時間12分
監督:アッバス・キアロスタミ
出演:ハッサン・ダラビ/マスウード・ザンドベグレー
小学校に通う10歳のガッセムは、サッカーに夢中なあまり宿題も授業もさぼりがちで、いつも先生や母親に叱られてばかりいる。そんな彼の夢は、テヘランで開催されるサッカーの試合を見に行くこと。そのためには、テヘランまでのバス代とチケット代が必要だ。サッカーのためなら嘘も盗みも厭わないガッセムは、友達のアクバルを道連れに、あの手この手でお金を稼ごうとする。果たして彼は無事サッカーの試合を見ることができるのか…?チケットを求めて走り回るガッセム少年の姿を瑞々しく描き出した、キアロスタミ監督の記念すべき長編デビュー作。少年の大胆不敵さに笑いながらも、彼の一途な思いにどこか哀切を感じずにいられない、可笑しくもせつない冒険譚。
『友だちのうちはどこ?』
1987年/イラン/1時間23分
監督:アッバス・キアロスタミ
出演:ババク・アハマッドプール/アハマッド・アハマッドプール/ホダバフシュ・デファイ/イラン・オタリ
イラン北部の小さな村。同級生モハマッド=レザのノートを間違えて持ち帰ってしまったアハマッド少年。「ノートを忘れたら退学だ」という先生の言葉を思い出したアハマッドは、ノートを届けに、遠く離れた友だちの家へと走り出す。何度も道に迷い、大人たちに翻弄されるアハマッド少年の不安げな表情が、のどかな風景のなか実にスリリングに映し出される。職業俳優を使わず、村の住人や子どもたち、実際の家や学校を用いて撮影するキアロスタミの撮影スタイルを象徴する作品であり、キアロスタミの名を世界各国に知らしめた、映画史上に輝く傑作。アハマッドが何度も走り抜ける「ジグザグ道」の風景は、その後の作品にも受け継がれていく。
『ホームワーク』
1989年/イラン/1時間17分
監督:アッバス・キアロスタミ
出演:シャビッド・マスミ小学校の生徒と親たち/アッバス・キアロスタミ(インタビュアー、ナレーション)
『友だちのうちはどこ?』で高い評価を得たキアロスタミが次に手がけたのは、宿題と学校教育をめぐるドキュメンタリー。イランの子どもたちはいつもたくさんの宿題に追われていると感じたキアロスタミは、自らインタビュアーとなり、小学校の生徒たちや親たちへ、「宿題」をめぐって次々に質問をする。「なぜ宿題をしてこなかったの?」「誰が宿題を見てくれるの?」その答えから見えてくるのは、それぞれの複雑な家庭事情。家の手伝いに追われて宿題ができない子。宿題を見てあげようにも読み書きのできない親。そうして徐々にイランの教育制度の持つ問題点が浮き彫りになる。社会への警鐘を鳴らしながら、子どもたちの多彩な顔や言葉を見事に記録した傑作。
『そして人生はつづく』
1992年/イラン/1時間35分
監督:アッバス・キアロスタミ
出演:ファルハッド・ケラドマンド/プーヤ・パイヴァール/ハドーバル及びロフタマバードの住民
1990年、イラン北部で起きた大地震は、『友だちのうちはどこ?』を撮影した村にも容赦なく襲いかかった。地震後、キアロスタミは映画に出演した兄弟の安否を確認しに、息子を連れて被災地へ向かう。本作は、その時の経験をそのままに再現。撮影は地震から半年後に実際の被災地で行われ、監督役には当時イランの経済庁で働いていた男が抜擢された。「私の映画に出ていた子たちを知ってる?」。車に乗り、少年たちを探しまわる監督親子の奇妙なロードムービー。そこには、地震で崩壊した村の悲惨な現状がまざまざと映し出される一方で、人間のたくましさと生きることへの希望が刻まれている。『友だちのうちはどこ?』と『オリーブの林をぬけて』をつなぐ重要作。
『オリーブの林をぬけて』
1994年/イラン/1時間43分
監督:アッバス・キアロスタミ
出演:ホセイン・レザイ/タヘレ・ラダニアン/モハマッド=アリ・ケシャヴァーズ/ザリヘ・シヴァ/ファルハッド・ケラドマンド
『そして人生はつづく』の1シーンで、地震の数日後に結婚したという若夫婦。だが実際に夫役を演じた青年ホセインは、以前、妻役のタヘレにプロポーズし断られていた。ふたりの過去を知ったキアロスタミは、このエピソードをもとに映画をつくることを決意。前二作に登場した村、そしてジグザグ道を舞台に、再び至福の映画が誕生する。結婚を諦めきれないホセインと決して彼の言葉に応えようとしないタヘレ。果たして彼女の気持ちはどこにあるのか…?映画内映画という入れ子細工のような構成のなかで、虚構と現実の境界線はどこまでも曖昧になっていく。映画製作の裏側で巻き起こるドラマをユーモアたっぷりに描き出す、キアロスタミ流ラヴストーリー。
『桜桃の味』
1997年/イラン・フランス/1時間39分
監督:アッバス・キアロスタミ
出演:ホマユン・エルシャディ/アブドルホセイン・バゲリ/アフシン・バクタリ/アリ・モラディ、ホセイン・ヌーリ
土埃が舞う道中、一台の車を運転する中年男バディ。彼は、街ゆく人々に声をかけ、車のなかに誘い入れてはある奇妙な仕事を持ちかける。「明日の朝、穴の中に横たわった自分に声をかけ、返事があれば助けおこし、返事がなければ土をかけてほしい。そうすれば大金を君に渡そう」。人生に絶望したバディの自殺幇助の頼みを、車内に招かれた、クルド人兵士、アフガン人の神学生らはみな拒絶する。だが最後に乗せたひとりの老人は、生きることの喜びをバディに語って聞かせるのだったーー。一台の車のなかで展開される生と死をめぐる果てない会話。自殺という深遠なテーマを扱った物語は、やがて思いもかけぬラストと共に、見る者に生の喜びと人生の美しさを教えてくれる。
『風が吹くまま』
1999年/イラン・フランス/1時間58分
監督:アッバス・キアロスタミ
出演:ベーザード・ドーラニー/ファザード・ソラビ
テヘランから、クルド系の小さな村を訪れたテレビ・クルーたち。彼らは独自の風習で行う村の葬儀の様子を取材しに来たのだが、村を案内する少年ファザードには自分たちの目的を秘密にするよう話して聞かせる。男たちは、危篤状態のファザードの祖母の様子をうかがいながら、数日間の予定で村に滞在する。だが数週間経っても老婆の死は訪れず、ディレクターのベーザードは、予定外の事態に苛立ちを募らせる。麦畑に囲まれた美しい風景のなかで繰り広げられる、主人公と個性豊かな村人たちとのユーモア溢れるやりとり。死を待つ時間という特異な瞬間を写し、キアロスタミの人生哲学をたっぷりと堪能できる一作。1999年ヴェネチア国際映画祭審査員グランプリ受賞作。
上映期間 | 2022年3月12日~3月25日 |
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公式サイト | https://kiarostamiforever.com |